夜のてんてき

よるに書く日記

日記2 ポーチのふくらみ

今日は昨晩から眠らずに夜通し映画を見ていた。

 

華やかにオールをして遊んでいたという友人から明け方にラインが来た以外、あるいはそれを含めても面白い夜じゃなかった。

 

恋愛相談を誰にもできない。職場の人にはもちろん相談できないし、だからって学生時代の友人にわざわざ自分の今のしどろもどろっぷりをひけらかして可愛い年齢じゃない。他人の恋愛話で大喜びしてくれるのは高校生までだったらしい。

それ以降はみんな恋愛は黙って黙々と、そしていたって順調に進めているようだった。私みたいにワーワーと慌てふためいて、出会い系チャットで知り合った男の人にラインで相談したり、占い電話を使ったり、ブログを書きなぐったりしない。

 

まだ残された2018年の3日間、いつだっておしゃべりができるライン上で「良いお年を」と今年のコミュニケーションを締めくくられてしまった。圧倒的に悲しい。あけましておめでとうなんて送り合うはずもないから、会社が始まるまで全てがお預けか。と思うとなんだか悪さをしたくなって、今朝方突然チャットで捕まった男の人と寝て来た。新宿で早朝に待ち合わせ。そのままホテルに行って10時代に解散した。

 

本当に久々に体を使ったから、帰宅すると下着に血がついていた。

相手は痩せ型の男性で、同じく痩せ型の彼のことをふっと想像するとものすごく興奮した。やっぱりエッチは好きな人としたいと思った。裸をみたいし、私の裸に触って欲しかった。初めての人とのえっちは今でもいつも恥ずかしい。だから恥ずかしがっている私を見て欲しい。歯切れの悪いいちゃつきを彼としたい。ベットの中で、焦る彼の手を制止するように手を握る私の掌を愛おしんで欲しい。今日は朝シャワーを浴びたから、肌からまだ甘いボディークリームの香りが漂っていて私の肌は最高潮だったのに。

 

 

会社の締め日だった昨日、生活がぐずぐずになっていて昼過ぎに出社した。打ち合わせで脳を疲労させた後、17時から17時半まで私は口紅を塗り直すことと不慣れなフレグランススプレーを吹きかけ直すのに右往左往していた。いつもスカスカのポーチがこの日だけ化粧直し用の化粧品でパンパンだった。

彼が来る。私がそう頼んだ。見せて欲しい資料があると伝えた。彼はお願い事や頼みごとをすると、恐ろしいぐらいに応えてくれる。その対応で私は余計につけあがる自分を抑えられない。だってネットにお願い事を張り切って聞いてくれるのは脈ありって書いてあるから。

 

やって来た彼が当たり前に私のデスクの横に腰掛ける。私はそれだけで嬉しい。数ヶ月前までは所在なさそうに寄りかかって立っている彼を見上げてお喋りしてた。しばらくすると彼は立ち話を諦めてリュックを背負ったまま椅子に座るようになった。そしてつい先日から、慣れた手つきで荷物を降ろしてストンと深く腰掛けるようになった。私の隣の席に。

 

男の人は支配欲が強いらしいけど、多分私も負けじと強い。人差し指と比べて薬指が圧倒的に長いからかもしれない。私の隣の席に、わざわざ腰掛けてくる彼が、もうとっくに自分のものだと思えてしまって仕方がない。近隣で一番、この猫に懐かれてるのはこの私だって、そういう気分になる。だってみんなのデスクの横に、この子こないでしょって。

 

絶対的に見ても見なくてもいい資料をわざわざ見せてもらう。別にデータを送ってもらえば済むし、適当でいいんだよそんなのと言われればそれで済むレベルの、本当にただ会いたいがための口実だった。(「年始に出さないといけない、この書類どうやって作ってるか、見たいです」私がこんな、あざといOLになるとは思わなかった。)会って、近づいて、わざわざ話す口実を作っただけ。彼だって本当はわかってるんじゃないか。わかってても見せにきてくれるんじゃないか。それとも本当に私が困っていると思ってくれているのかもしれない。でも前者後者どっちだとしても、私は彼の好意を感じずにはいられない。すっかり付け上がってるから。

 

会話はいつも彼が大抵聞き役だった。私は聞上手な彼に比べて圧倒的に質問も返答も下手くそだ。会話の端を拾い上げて質問にして返す。

モテるための技術として取り上げられているその会話術を何度読み返したところで、全く身につかなかった。

 

ここ1ヶ月、行き帰りの電車の中で、「脈あり男性の仕草」を延々と読みふけってはマルバツをつけて一喜一憂するのが日課になっていた。そんなことをし始めるともう収集がつかなくて、あとはもう彼の一挙一動にこれは脈アリの兆候かもしれない、いや無しかもしれないと過敏になって、それをジャッジするためにネットや顔を知らない出会い系チャットのおじさんたちに「ねえねえこれは脈あり?」と聞き込み調査をする哀れっぷりだった。

 

重たい扉を、私が通り抜けるまでできる限り支えておこうとしてくれるのは脈アリ?

帰り道、線の違う彼が私の線の改札ギリギリまで寄ってくれるのは脈アリ?

頼ると全力で応答してくれるのは?

ラインがこの間1時間も続いたことがあったのは?

でも絶対彼からラインがくることがないのは?

 

1日ずっとこの調子だった。

 

見ても見なくてもどっちでもいい資料のお手本を見せてもらってから、私は彼が帰るのを待った。もうこれ以上暇が潰せないやと判断した時、私は帰りましょうと誘った。何度か、わざと残業時間を合わせて帰った前科もあるけど、彼が帰るよと声をかけてくれた時もあった。いつでも分かれ道で別れることができるし、帰りましょうという私の誘いを断ることもできたけど、でも私の改札までの短すぎる道のりを、ぼんやり一緒に歩いてくれるだけで私は嬉しい。もしかしたら全部全部が私の妄想かもしれなくても。

会社の脇のイルミネーションの中を通る時だけ、毎度無言になる。華やかな場所を嫌う私たち2人が、街の喧騒を無視するという行動を共にしている。イルミネーションを馬鹿にするんじゃなくて、ただ無言でそこを通り過ぎる儀式が、私はなんだか好きだった。

 

やめればいいのにクリスマスに電話占いをした。馬鹿だし病んでたから。

占い師には彼には4月ごろ告白されます。でもおつきあいするまで2人で食事に行くようなことはない。彼はそういう人です。と言われた。でももしかしたら今日は、占い師の予想が外れて、2人で食事ができるかもしれない。そう思った。そう思ったがゆえの化粧ポーチのふくらみだった。でも結局私は2018年中に、彼と2人で食事をすることはなかった。