日記1 受話器で声を隠して
今日は会社をサボった。
目が覚めたら12時で、予定も何もないから東急ハンズに行って土と植木鉢を買った。
夏前に買った観葉植物をビニールポットのまま育てていて、自転車を買うよりも新しい財布を買うよりもまずは植木を植え替えないといけないと思ってたから。
でも鉢底用のネットと軽石を買い忘れて、しかも元気のない植物を、この寒い時期に植え替えていいのかってやっぱり不安になってとりあえずやめた。
年末までにまた東急ハンズに行けたら、ネットと軽石を忘れずに買って植え替えてみる。
最近本当に久しぶりにだけど好きな人ができた。
1年前のクリスマスにちょうど振られてから1年間、あっという間にすぎた。
前付き合っていた人は恋愛をして付き合ったわけじゃなくて、付き合ってから恋愛した。それまでは本当に友達かそれ以下だった。だからこうやってバカみたいに「ああ好き!」と大騒ぎして、なんとか距離を縮められないかと試行錯誤するのは、ほぼ始めてのことだ(青春未経験)
今同じ職場に好きな人がいる。ずっと前からの知り合いで、でも急に好きになった。
紙の日記によると(紙の日記とブログって一体どう書き分けたらいいの)
8月23日木曜日に恋に落ちている。
電話しながらフラッと近寄ってきて、私のデスクに寄りかかりながら電話を続ける彼と目が合った時、ガランっと心臓が落ちる音がしたと書いてある。
私はその時のことをよく覚えている。確かに心臓が5センチ〜10センチ落ちた。その時確かに、岩か金属が、落ちたみたいな衝撃と音が、体の中に響いた。
彼はよくうろつきながら社内で電話をかけている。誰よりも声を潜めながら、さらに人が居ない場所を求めて歩きながら電話をする。その日は確かもう人が少なくなった夜だった。終わりのめどがついてきた電話を耳に当てながら、私と視線を合わせながらゆっくりと近づいて、私のデスクにもたれかかる。
そして電話が終わるまで、私たちは奇妙に時間を共有する。
電話の最中、何度も目を合わせる。彼は電話越しの相手に仕事の指示を出しながら、じっと無表情にこちらを見てくる。私も負けじとじっと見つめ返す。人見知りに輪をかけたような2人が、無意味に視線を交差できる瞬間。暇な電話の最中、会話の義務から逃れて、視線と空気と時間を共有する。
その間私の頭は空白で、視線だけ空中と彼の輪郭を行き来させる。彼の視線がこっちに向いていない間は、スケッチする時みたいに彼の形をどんどん吸収していく。見上げた時の顎の曲線。一見細く見えて実はしっかりと縦幅のある目。ああ私この人の造形やっぱり好きだなって、削った鉛筆の代わりに視線を走らせる。
8月23日までは恋に落ちていなかった。だからなんの迷いもなく彼に近づいたし話しかけられた。でもガランと音を立てて私の心臓がどこかに落下してしまってから最近まで、彼の一挙一動に舞い上がったり落ち込んだりを繰り返した。アプローチしては離れられて、離れては近づかれる。人嫌いな野良猫を飼いならすまでの攻防戦だ、これはゲームだと自分を励ましながら過ごした。日記もバカな中学生みたいなことしか書いてない。恋に落ちると人はチンパンジー並みの知能になることが科学で証明されているらしい。
8月23日以前の方が、うまくアプローチできていたと思う(アプローチのつもりはなかったんだけど)そのアプローチの貯金が、少しずつ効いてきたのか、それとも彼の不安定な態度に動じない私に対して警戒心が無くなったのか、距離を故意に作られることが無くなったと思う。何がきっかけかはわからないけど、アプローチしたところで突き放されることは無くなった。
tofubeatsのRIVERとHYの366日とフジファブリックの若者のすべてをずっと聞いてて我ながら頭が沸いてると思ってる。